無角和牛

無角和種繁殖センター
現在、無角和種は山口県内のみで飼育されています。阿武町と美祢市の2つの地域で、土地の豊かさを活かした取り組みが行われています。
町の宝として種をつなぐ
無角和種振興公社がある阿武町は、無角和種生産の中心地。頭数の減少が進み、種の存続が危惧されるなか、種を守り、地域産業としての再構築と振興を担うために設立されたのが無角和種振興公社です。山口県と阿武萩の9市町村(合併前)、農協、経済連が参画し、第3セクター方式によって平成6年(1994年)に設立されました。以来、無角和種を飼育するための「繁殖センター」を建設、平成8年(1996年)には肥育牛舎を整備し、繁殖から肥育まで地域内での一貫生産を続け、これを核とした新しい生産流通システムの構築に取り組んでいます。
無角和種の郷 阿武町
日本海に面すると同時に豊かな山にも囲まれた阿武町は、森・里・海が連なる自然環境からその恵みを享受し、農業と漁業の両方を産業の基本としてきました。暮らしに根付いた産業を守りながら、それらの生産活動が自然環境に与える負荷を軽減させることを目指した各種インフラ整備にも取り組んでいます。
山口県北部に位置する。面積は115.95 km2。人口は約3,055人(2020年国勢調査)
海に突き出す大地の傾斜地に拓けた「木与の棚田」には、黄金色の稲田が広がる。
周辺を囲む阿武火山群の火成活動によって形成された天然礁は好漁場となり、豊富な水産物をもたらしている。
無角和種が生まれるまで
無角和種の妊娠は人工授精によって行われます。初期の妊娠牛や妊娠にそなえる繁殖牛たちは、牛舎から直結する繁殖センター場内の運動場に出ることができます。さらに妊娠週の進んだ母牛たちは福賀地区の西台牧場に放牧され、のびのびと健康的に妊娠期間を過ごし、お腹のなかで子牛を育てます。 牛舎に戻り、出産が近づくと、安心して子牛を生んでもらうために他の牛と隔離し、子牛が生まれると、生後4ヶ月までの間、母牛が母乳を与えて育てます。母乳で育つ子牛は、たっぷりの栄養摂取とともに免疫力を高めることができます。
自力で出産を乗り越え、子牛の面倒を良く見る無角和種は母性豊かで子育て上手。
胃を刺激して大きく育てる
生後5ヶ月を迎えると母牛のもとを離れ、ビタミン豊富なトウモロコシや麦などを配合した飼料に、さらにビールかすを配合したものや粗飼料を食べ始めます。乾いてチクチクとした牧草(チモシーやオーツ)を食べることで胃が刺激され、広がり、丈夫で消化力の高い胃が育ちます。人間で言うところの成長期。この時期の重要性を再認識し、さらに丁寧な胃づくりを目指して取り組んでいきます。
大きな目とふさふさとしたたてがみという無角和種の愛らしさが一層際立つ子牛たち。少し茶色い毛並みの子牛も、成長につれて黒く艶のある姿になる。
地産の粗飼料を食べて大きく
育成牛舎にて8ヶ月を迎えると、肥育牛舎へと移ります。出荷までの22ヶ月から25ヶ月までの期間を過ごす肥育牛舎では、成長段階に合わせた量の濃厚飼料と、阿武町の牧草で作ったイネ発酵粗飼料(肥育期間の前半)、阿武町の稲わら(後半)を食べて育ちます。地域産の飼料を給与することで、安心・安全な生産を目指しています。
一般的に、黒毛和種が出荷されるまでに最低28ヶ月程度の肥育期間を必要とするのに対し、無角和種は20ヶ月から25ヶ月程度で出荷されます。出荷時、体は約620kgほどに成長しています。
どっしりと丸みを帯びた体型に成長。早熟性、早肥性は、アバディーン・アンガス種から受け継ぐ無角和種の特性である。
粗飼料の地産地消に取り組む
消費者の購買意識において、国産品を選択する意識や産地を確認する意識、トレーサビリティを重視する傾向が高まっています。食品を購入する際に、鮮度や価格だけでなく産地を確認し、より安心感のある商品として国産品、地産の商品、トレーサビリティにも対応した商品を優先して選ぶということ。※1
そのニーズを前に、地域で一貫生産を続ける阿武町の強みをさらに活かすのが、地域栽培飼料での飼育です。輸入飼料に加えて、耕畜連携によって供給される「稲わら」や「牧草」を肥育期の飼料として使用、繁殖牛には同町の東台にて栽培したイタリアンライグラスを与えています。町内の耕畜連携を推進することで飼料自給率をさらに高める取り組みを行っています。
今後は、輸入飼料に頼る一般的な和牛の飼育体制からの脱却を目指し、濃厚飼料も含めた飼料の主体を国産や県内産、町内産に切り替えていく計画です。
※1 参考:『食品の購買意識に関する世論調査』(平成28年2月東京都生活文化局)
イネ科の牧草であるイタリアンライグラスを町内で作付。タンパク質が豊富で生育が早いことから飼料の自給率向上に貢献している。
阿武町が取り組む耕畜連携
地域の農業に堆肥を供給し、その堆肥で育った牧草を牛たちが食べる。阿武町では、地域と連携して自然の循環を活かした仕組みづくりを進めています。
牛舎で出る糞尿は隣接する堆肥センターで発酵と貯蔵を行い、完熟堆肥を製造。その堆肥を使った土作りで農地の地力の向上を図り、多様な作物が生産されている。さらに、稲わら等が飼料として利用され、牛舎へと戻ってくる。
無角和種のいる風景をつくる
現在、阿武町では休耕田に電気放柵や水飲み場、適度な日陰を整備して牛を放牧する移動型放牧を実践しています。穏やかな性格の無角和種は放牧に適していて、敷地内でのんびりと過ごしながら伸びた雑草を食べてくれるため、土地の見通しも良くなり、イノシシなどによる獣害が減ることも期待されています。
農地保全の目的とともに、ストレスの少ない放牧期間を牛に与えられること、放牧中は餌代がかからず餌やりの手間も省けること、町民にとって無角和種が再び身近な存在となることなど、さまざまな目的を兼ねた取り組みです。
奈古地区の約500㎡の休耕田に放牧された雌2頭。国道と線路からも近く、車窓からもその姿を見ることができる。
ストレスを軽減する取り組み
生き物本来の生理にかなった環境や、種の特性に合った管理で育てられた牛たちは、健康的であるもの。理想とするのは、豊かな自然に囲まれ、母牛の乳を飲み、のびのびと歩きまわり、良質な草を食べて育った幸せな牛の姿です。近年では、アニマルウェルフェアへの意識の高まりとともに、各国の畜産の現場で、さまざまな取組が進んでいます。阿武町でも、アニマルウェルフェアに配慮した飼育体制への転換を重要な課題と捉え、実践を重ねています。これまで行ってきた放牧飼育を行いながら、今後の飼育スタイルも検討。草でよく育ち、サシの入らない赤身が育つという無角和種の特性は放牧に特に見合っており、黒毛和種を主流とする従来の飼育方法との差別化を実現するものです。独自の牛との向き合い方で、阿武町はアニマルウェルフェアに取り組んでいきます。
福賀地区の広大な西台牧場での放牧。妊娠牛が穏やかに過ごす。
繁殖牛である雌牛は、繁殖センター場内の運動場と牛舎を行き来して過ごすことができる。
アニマルウェルフェアとは
世界の動物衛生の向上を目的とする政府間機関である国際獣疫事務局の勧告において、「動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態」と定義され、家畜を快適な環境下で飼養することにより、ストレスや疾病を減らすことが重要であり、結果として、生産性の向上や安全な畜産物の生産にもつながるとしている。
育てた牛を送り出す
出荷月齢を迎えた牛たちが向かうのは、山口中央家畜市場。黒毛和種をはじめとする他の牛や子牛たちの競りが行われるのと並んで、無角和種繁殖センターからも毎月約3頭が出荷され、地元の食肉卸業者と取引されています。ここでも無角和種は希少な存在です。
肉となった無角和種は、事業者の販売窓口や「道の駅阿武町」をはじめとする店舗にて売られるほか、赤身肉にこだわりを持つシェフのもとへ届けられます。
出産から出荷まで。この家畜市場に牛たちを送り出すまでが大切な仕事です。
誕生時は30kg程度だった体も立派に。市場に着くと体重を測定して取引が始まる。
この種、この土地ならではの味を
ルーツが明確である固有の種が地域内でつながれ、繁殖から肥育までの一貫生産が行われている現在。これは、無角和種が誇るべき大きな魅力です。世界に誇る和牛の1品種として目指すのは、赤身を自慢とする種の特性に合った飼育方法でその個性を引き出すこと。実現したいのは、「無角和種ならでは」と認識して堪能してもらえる赤身のおいしさ。そして、この土地のものを与えた「この土地の味」をより色濃く表現すること。無角和種を食べることで、この豊かな自然の恵みと生産のこだわりを感じてもらえる、そんな未来を目指しています。
お問い合わせ
阿武町役場
〒759-3622 山口県阿武郡阿武町大字奈古2636番地
TEL:08388-2-3114
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